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京都地方裁判所 昭和54年(行ウ)7号 判決 1983年1月21日

京都市西京区大枝南福西町二丁目九番地の一〇

原告

中大路孝男

右訴訟代理人弁護士

高田良爾

京都市右京区西院花田町一〇番地の一

被告

右京税務署長

森本圭治

右指定代理人

高田敏明

国友純司

古城毅

山崎睦子

日野明義

塩谷邦幸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五二年三月四日付で原告の昭和四九年及び昭和五〇年分の所得税についてなした更正処分(昭和四九年分については異議決定及び裁決による一部取消後のもの、昭和五〇年分については異議決定による一部取消後のもの)のうち、昭和四九年分について総所得金額一一四万八五〇〇円、昭和五〇年分について総所得金額八六万円をそれぞれ超える部分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、食料品販売等を業とするものであるが、昭和四九年及び昭和五〇年分(以下「本件各係争年分」という。)所得税について別表一の(一)のとおり確定申告をしたところ、被告は昭和五二年三月四日付で同表の(二)のとおりの更正処分をした。原告はこれを不服として被告に異議申立をしたところ、同年七月七日付で同表の(三)のとおり本件各係争年分とも一部取消す旨の異議決定がなされたが、更にこれを不服として国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、昭和五四年二月二八日付で同表の(四)のとおり、昭和四九年分については更に一部取消し、昭和五〇年分についてはこれを棄却するとの裁決がなされ、そのころ裁決書謄本が原告に送達された(以下、異議決定及び裁決による一部取消後の更正処分を「本件更正」という。)。

2  しかし、本件更正は以下の理由により違法であり、取消されるべきである。

(一) 被告の部下職員は、原告の所得税を調査するについて、原告から調査理由の開示を求められたのに、これを全く開示しなかったからその調査は違法であり、これに基づく本件更正も違法である。被告の部下職員が原告の開示要求に応じていれば、原告は事業に関する帳簿書類を提示していた。

(二) 原告の本件各係争年分における総所得金額は確定申告のとおりであり、本件更正のうち右金額を超える部分は、原告の所得を過大に認定した違法がある。

二  請求原因に対する認否

請求原因1は認め、同2は争う。

三  被告の主張

1  課税の経緯について

原告は、昭和四九年より長岡京市滝ノ町一丁目五番八号(旧地番は同市井ノ内下河原二丁目六番地)において、「井ノ内ストアー」なる屋号をもって、主としてパン・菓子等の小売を行なう食料品店を営み、また、昭和四七年から昭和五〇年五月までの期間、同市開田四丁目七番地のスーパーマーケット「イズミヤ」店内において、「さつき」なる屋号をもってお好み焼屋を営んでいた白色申告者である。

被告は、原告の本件各係争年分の所得税の調査のため、昭和五一年六月一七日から昭和五二年二月二八日までの期間、再三部下職員を原告の事業所に派遣し、原告に対し原告の確定申告した所得額が正当であるか否かを確認するために調査を行なう旨述べて調査に着手する理由を告知したうえ、事業に関する帳簿書類の提示を求めたが、原告はこれに対して一切応ぜず、また、部下職員の質問に対しても応答せず、被告の調査に対して終始非協力的な態度を示した。

そこで被告は、やむを得ず、原告の取引先、取引銀行等を調査し、本件各係争年分の所得金額を算定したところ、原告の申立額を上回ったので、本件更正をした。

2  総所得金額について

本件各係争年分における原告の総所得金額は、以下に述べるとおり、昭和四九年分が二五四万八九五一円、昭和五〇年分が四七二万三七三九円であり、本件更正はいずれもその範囲内でなされたものであるから適法である。

(一) 昭和四九年分

(1) お好み焼屋の営業による所得金額 一四五万五七一五円

原告が本件の審査請求時に主張した所得金額の計算のうち、減価償却費に関する原告主張額一一〇万一八七五円を別表二の昭和四九年分償却額のとおり五二万八七九八円に是正し、その余は原告の主張する各金額を採用して算定した金額である。

(算式)

(原告主張の所得金額)(原告主張の減価償却額)(被告主張の減価償却額)(お好み焼店の営業による所得金額)

882,638円+1,101,875円-528,798円=1,455,715円

(2) 食料品店の営業による所得金額 一三六万八二三六円

(ア) 売上金額 八三五万四二一九円

後記(オ)の売上原価六四四万〇二六八円に類似同業者の差益率二二・九一パーセントを適用して算定した金額である。

(算式)

(売上原価) (差益率) (売上金額)

6,440,268円÷(1-0.2291)=8,354,219円

(イ) 期首たな卸高 二八万五四八七円

原告が中大路悦子より引継いだ商品の金額である。因みに、仕入金額六四九万一〇一六円に類似同業者の期首たな卸率四・四四パーセントを乗じて推計すると二八万八二〇一円の金額がでるが、同金額を採用すると僅かではあるが原告には不利となる。

(ウ) 仕入金額 六四九万一〇一六円

被告が、昭和四九年中の原告の仕入先を反面調査し、一部推計して算出した仕入金額の合計である。

仕入先別の仕入金額は次のとおりである。

(仕入先) (仕入金額)

<1> フジパン株式会社 二五三万一七七五円

<2> 飯島弘敏(森永乳業井ノ内販売店) 四七万九〇七〇円

<3> 株式会社カワカツ 六四万五八八九円

<4> 株式会社渡辺 一四四万四〇一六円

<5> 株式会社三ツ矢ペンデイング 三万七八七〇円

<6> 清水株式会社 一一六万九八一六円

<7> 近畿コカ・コーラボトリング株式会社 一八万二五八〇円

被告の反面調査では、原告の右会社からの製品別・月別仕入数量と仕入単価しか把握できなかったので、右数量、単価を基礎にして、別表三のとおり推計によって算定した。

(エ) 期末たな卸高 三三万六二三五円

仕入金額六四九万一〇一六円に類似同業者の期末たな卸率五・一八パーセントを適用して算定した金額である。

(算式)

(仕入金額)(期末たな卸率)(期末たな卸高)

6,491,016円×0.0518=336,235円

(オ) 売上原価 六四四万〇二六八円

期首たな卸高に、仕入金額を加算し、期末たな卸高を減算した金額である。

(算式)

(期首たな卸高)(仕入金額)(期末たな卸高) (売上原価)

285,487円+6,491,016円-336,235円=6,440,266円

(カ) 一般経費 二八万五七一五円

売上金額八三五万四二一九円に類似同業者の経費率三・四二パーセントを適用して算定した金額である。

(算式)

(売上金額) (経費率) (一般経費)

8,354,219円×0.0342=285,715円

(キ) 特別経費 二六万円

原告が、本件の審査請求時に主張した雇人費の金額である。

したがって、原告の食料品店の営業による所得金額は、売上金額から売上原価、一般経費及び特別経費を差引いた一三六万八二三六円となる。

(算式)

(売上金額) (売上原価) (一般経費) (特別経費) (食料品店の営業による所得金額)

8,354,219円-6,440,266円-285,715円-260,000円=1,368,236円

(3) 事業専従者控除額 二七万五〇〇〇円

原告の申告額である。

(4) 事業所得金額 二五四万八九五一円

お好み焼屋の営業による所得金額と、食料品店の営業による所得金額との合計額から、事業専従者控除額を差引いた金額である。

(算式)

(お好み焼屋の営業による所得)(食料品店の営業による所得)(事業専従者控除額)(事業所得金額)

1,455,715円+1,368,236円-275,000円=2,548,951円

(二) 昭和五〇年分

(1) 事業所得金額 八六万円

原告の確定申告額である。

(2) 総合短期譲渡所得金額 三八六万三七三九円

原告が、昭和五〇年一二月、長岡京市開田四丁目七番地所在のスーパーマーケット「イズミヤ」店二階の店舗の賃借権及び店舗・什器備品を一括して株式会社春陽堂に売渡した金額八〇〇万円から、次に述べる取得費、譲渡費用等を差引いた金額である。

(算式)

(譲渡収入) (取得費) (譲渡費用) (特別控除額) (譲渡所得)

8,000,000円-3,570,261円-66,000円-500,000円=3,863,739円

(ア) 取得費 三五七万〇二六一円

店舗及び什器・備品の未償却残高である。その内訳の明細は、別表二に記載したとおり、当初取得費四七四万七六八五円から償却額の累計一一七万七四二四円を差引いた金額である。

(算式)

(別表二の<4>の合計額)(別表二の<16>の合計額) (取得費)

4,747,685円-1,177,424円=3,570,261円

(イ) 譲渡費用 六万六〇〇〇円

当該賃借権、店舗、什器・備品を売却するために支出した広告代金である。

(ウ) 特別控除額 五〇万円

所得税法三三条四項に規定する金額である。

(3) 総所得金額 四七二万三七三九円

事業所得金額と総合短期譲渡所得金額との合計額である。

3 推計の必要性について

原告のように商品の仕入及び販売を悉く現金取引によってなしている場合には、納税者の協力がなければ納税者の所得金額を実額によって知ることは不可能である。しかるに、前記1で述べたとおり、原告は被告の調査に対して終始非協力的な態度を示したので、被告は原告の昭和四九年分の所得金額を推計によって算定せざるを得なかった。

被告が調査理由の開示要求に応じていれば事業に関する帳簿書類を提示していたとの原告の主張は、原告の備付け帳簿に信ぴょう性のないこと、または、全く記帳していないことを隠すための口実にすぎない。

このことは、本訴において、原告が未だに帳簿書類を提示しないこと、同額であるべき原告の申告所得金額(一一四万八五〇〇円)と審査請求時における原告主張の所得金額(一二六万五四二二円)が相違することから明白である。

4 同業者率の算出について

被告は、昭和四九年分における原告の食料品店の営業による所得金額を推計するため、類似同業者として、<ア>原告と同様に右京税務署管内において、主としてパン・菓子等の小売を行なっている食料品を営む業者で、<イ>原告の営業と店舗の規模、従事員数、立地条件等が近似し、<ウ>青色申告により所得申告し、課税処分に対して不服申立てをしていないもの、の要件を満たす事業者一名(以下「本件類似同業者」という。)を選択し、これにより次のとおり同業者率を算出した。

(一) 差益率二二・九一パーセントは、本件類似同業者の昭和四九年分における青色申告決算書の差引金額一三二万九一二〇円を、売上金額五八〇万一三六九円で除算した数値である。

(算式)

1,329,120円÷5,801,369円≒22.91%(小数点三位以下切捨)

(二) 期末たな卸率五・一八パーセントは、右青色申告決算書の期末商品たな卸高二三万三二九二円を、仕入金額四五〇万五四四一円で除算した数値である。

(算式)

233,292円÷4,505,441円≒5.18%(小数点三位切上)

(三) 経費率三・四二パーセントは、右青色申告決算書の経費計二〇万七二六二円から地代九〇〇〇円を減算し、更に売上金額五八〇万一三六九円で除算した数値である。

(算式)

(207,262円-9,000円)÷5,801,369円≒3.42%(小数点三位切上)

右同業者率はいずれも本件類似同業者の昭和四九年分における青色申告決算書に記載されている金額を基に算出したものであるから正確である。

5 推計の合理性について

被告が本件において用いた推計方法は次のとおり合理的である。

(一) 所得金額の算出は、納税者自身ならば容易かつ正確にできるが、課税庁に強いるときは多大の犠牲を強いる割に精度の高い数値が得られないものであり、また、帳簿書類を作成しないか、あるいは作成していてもその提示を拒む不誠実な納税者に対して最も控え目な推計課税方式をとって当該納税者を利することは公平の原則にもとるほか、更には国民全体の健全な納税意欲を害し、国家存立の基盤を蝕むことから考えるならば、一般論としていえば、課税庁は、多額の行政経費を費やして、理論的に考えうる最善の推計課税方式を選択することまでは要求されておらず、一応合理的といえる推計方式のうちの一つを選択すれば、正当に推計課税をしたと解されるべきである。

(二) 原告及び本件類似同業者らが事業とするパン・菓子小売業においては、廉価多売を営業方針とする業者や特定の顧客に対する売上が多い業者等特段の営業方針・事情を有する業者を除けば、差益率等の数値は平均値に近接した範囲内に集中する。すなわち、原告らが事業とするパン・菓子小売業における差益率は、特段の事情がない限り互いに近似するといえる。

(三) 本件類似同業者の事業内容、事業規模、立地条件、業績等が原告のそれらと近似していることは、以下述べるとおりである。

(1) まず両店の取扱商品をみると、両店ともパン、牛乳、ジュース・コーラ・サイダー等の各種飲物、アイスクリーム・キャンデー等の氷菓子、チョコレート・ガム・キャラメル等のポケット菓子、米菓子・ビスケット等の袋詰めの菓子、ジャム・果物等の缶詰、その他コーヒー・インスタントラーメン等を販売していることから、近似していることが認められる。

(2) 両店の取扱い商品の構成比はほぼ同一である。強いて両店の取扱い商品の構成の違いをとりあげると、本件類似同業者の方が飲物及びアイスクリームの取扱い割合が原告店より高いことである。しかしながら、この点は、飲物及びアイスクリームの差益率(二〇パーセント強である。)が他の取扱商品の差益率よりも低いことからみると、本件類似同業者の差益率を用いることは原告にとって有利に計算されることになる。

(3) 両店とも専ら商品を店頭売りする業務に携わっている。

(4) 両店の立地条件をみると、いずれも住宅地域に位置している。また原告の店舗は「向日町ショッピングセンター」に近接しているのに対して、本件類似同業者の店舗は、大手のスーパー・マーケットに近接しており、いずれも近隣に競業者としてのスーパー・マーケットをもっている。更に近年になって、右両店舗の付近にはそれぞれ専らパンの販売に携わる「ベーカリー」が開設され、原告及び本件類似同業者の双方とも競業者としての「ベーカリー」の影響を受けている。

(5) 両店とも、専門のパン製造業者の製品を小売しており、自らパンを製造することはしていない。

(6) 両店の従業員数をみると、原告の店舗では、原告本人と祖母の二人が販売に従事しているのに対して、本件類似同業者の店舗では老夫婦二人が販売に従事している。

(7) 両店の店舗の規模をみると、原告の店舗面積が一五平方メートル弱であるのに対し、本件類似同業者の店舗面積は一〇平方メートルであり、大差はない。

また、店舗の向きについては、両店舗とも北向きであるので、照明・空調等に要する費用の比率が近似すると考えられる。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1のうち、原告が昭和四九年より「井ノ内ストアー」なる屋号をもってパン、菓子の小売を行なう食料品店を営んでいたこと、原告が白色申告者であることは認め、その余は否認する。

原告が「さつき」なる屋号のお好み焼屋を営業したのは、中大路悦子から右店舗の譲渡を受けた昭和四八年一一月ころより後である。

また、所得税調査は、所得額が正当であるか否かを確認するためにのみこれを行なうことは許されず、しかも、原告は被告の部下職員に対し、「自分の行なった申告のどの部分を調査するのか。多数の納税者のうちから原告を調査対象としたのはどうしてか。調査理由について具体的に説明してほしい。」旨要求したにすぎない。

2  同2の冒頭部分は争う。

同2の(一)の(1)は否認する。店舗、備品、フードの取付価格を加えたうえで償却費を算出すべきである。

同2の(一)の(2)のうち、(ウ)の<1>ないし<7>の仕入先が原告の仕入先であることは認め、その余はいずれも否認する。

同2の(一)の(3)は認める。

同2の(一)の(4)は否認する。

同2の(二)の(1)は認める。

同2の(二)の(2)は否認する。中大路悦子は昭和四七年一月ころお好み焼屋の店舗を改造し、同月三〇日改造費として一九〇万円、備品類一式として三〇万円を支出した。原告は昭和四八年一一月ころ中大路悦子から右店舗の譲渡を受け、実質的に右店舗の営業を継続してきた。したがって、右店舗の譲渡所得の計算上、右改造費等を取得費に算入すべきである。仮に被告主張のように昭和四七年以降原告がお好み焼屋を営業していたとすれば、右費用が取得費に算入(減価償却費の計算をしたうえで)されることは論をまたない。また、原告は、昭和四八年一〇月八日ころ、永井忠厚より、同人が乙訓商業協同組合から賃借し、寿司店を経営していた店舗の権利を取得したが、その際、同人に対し、右店舗取得のための権利金(営業譲渡の対価であり、立退料は含まない。)として二一〇万円を支払ったが、右金額は右店舗の取得費に算入すべきである。

同2の(二)の(3)は否認する。

3  同3は争う。被告は原告の所得税を調査するについて原告から調査理由の開示を求められたのにこれを開示しなかったのであるから、推計課税の要件を欠いている。

4  同4は争う。本件類似同業者の青色申告決算書の正確性は確認されていない。

5  同5のうち、本件類似同業者の事業内容、事業規模、立地条件、業績等はいずれも不知、その余は争う。被告の主張する類似同業者はわずか一名であり、これが原告と類似する同業者であるか否かも判明しない。また、原告は昭和四八年一一月以降お好み焼屋も兼業していたのであるから、お好み焼屋を兼業するものでないことが明らかな本件類似同業者は、原告の類似同業者として不適格である。

五  被告の再反論

1  総合短期譲渡所得について

(一) お好み焼屋開業時に取得した店舗一九〇万円及び備品三〇万円は、原告が昭和四八年一〇月に店舗を増改築した際に除却したものとして処理し、別表二記載の当該店舗及び備品の未償却残高一五八万六五〇〇円及び二三万八一二五円を廃棄(除却)損として原告の昭和四八年分事業所得金額の算定上必要経費に計上すべきである。なぜなら、右増改築は、開業時からの店舗に隣接していた永井忠厚から寿司店を買取り、従前の店舗と合わせて新店舗としたものであり、その規模は、鉄板付テーブルを普通の食堂用テーブルに改め、新たにカウンターを設ける等かなり大規模なもので、その費用は四〇一万六二五〇円(別表二記載の取得価額から冷蔵庫、お好み焼用卓子及び食器の各金額を差し引いた金額)にもなり、基礎工事を除いた内装工事(建物の本体は、スーパー・イズミヤのもので、これを乙訓商業協同組合が借りている。)としてはかなりの金額である。すなわち、右増改築は単に隣接していた店舗間の壁・間仕切を取り除いたものではなく、全面的に店舗の改造工事をしたものであるからである。

したがって、被告は、開業時取得の店舗等を増改築時に除却したものとして処理した。

(二) 次に、原告は、永井忠厚に対して権利金二一〇万円を支払った旨主張するが、右権利金は、右永井の乙訓商業協同組合に対する出資金二一〇万円と相殺されており、実質的には店舗を譲渡した時に全額返還されるものであるから、本件譲渡所得金額の計算上取得原価に算入することはできない。

仮に右二一〇万円が永井に支払われたとした場合であっても、以下に述べるとおり、所得税法上取得費として全額計上することはできない。

(1) 原告は、右二一〇万円については営業権の譲受けの対価であると主張するが、右主張は明らかに失当である。

なぜなら、営業権とは、平均的利益以上の利益、いわゆる超過利益を継続的に獲得しているときに、そこにのれんとしてその存在が認められるものであるところ、永井が本件寿司店を営業した期間は一年足らずであって、右にいう超過利益をあげる程の立地条件を備えているとも認められないからである。

右二一〇万円の性格は店舗(造作費)、備品等の対価及び立退料が集約、総合されたものと考えるべきである。原告は昭和四八年一〇月に店舗、備品を譲受けた後、すぐに改装を行ない、実質的にはこれらを使用しなかったのであるから、店舗、備品等の価額に対応する部分は実体のない無形の資産であり、所得税法施行令七条一項四号ロにいう資産を賃借するために支出する権利金に該当し、所得税法上は、立退料と同様に繰延資産として、当該資産を取得したことにより営業活動に効果の及ぶ期間内、換言すれば当該資産となる費用の支出の効果の及ぶ期間において均等額を償却することになる。

(2) 右繰延資産なる費用の支出の効果の及ぶ期間については明文規定がなく、合理的方法に基づき算定することになり、課税庁として設定している目安となるべき基準、すなわち所得税基本通達五〇-三によれば、本件繰延資産は五年で償却することになる。

したがって、仮に原告が永井に対して支払ったという二一〇万円を本件総合短期譲渡所得金額の算定上取得費として計上するとしても、その金額は、当該資産を取得した昭和四八年一〇月から閉店する昭和五〇年五月までの期間二〇か月分の償却額七〇万円(<省略>)を控除した一四〇万円だけということになる。

2  推計の合理性について

原告は、お好み焼屋を兼業しており、本件類似同業者は原告の類似同業者として不適格であると主張するが、お好み焼屋の事業形態とパン・菓子等の小売業の事業形態には極端な差異があり、例えば、差益率ひとつをみても、お好み焼屋は約六〇パーセント、パン・菓子等の小売業は約二五パーセントである。

したがって、仮にお好み焼屋とパン・菓子等の小売業を兼業する同業者を選定できたとしても、それぞれの業種目毎に収入金額・必要経費を分別して所得金額の計算をしなければならず、そのためには、当該同業者自身、詳細な記帳方法を採っていることが条件となり、この条件を満たす同業者は、原告の事業規模においては皆無であるから、原告の右主張は失当である。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第五号証

2  証人中大路悦子(第一、二回)、同上岡美結起、原告本人

3  乙第一号証の一、二、第一一号証の二の一ないし七、第一三号証、第一六号証、第二一号証、第二八及び第二九号証の成立は認める。第一〇号証のうち、売上収入金額欄及び仕入金額欄の※印を付した金額部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める。第一一号証の一及び第一二号証のうち、いずれも中大路悦子の署名捺印部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。その余の乙号各証の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一ないし五、第四及び第五号証、第六号証の一ないし三、第七及び第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一、同号証の二の一ないし七、第一二ないし第一四号証、第一五号証の一、二、第一六ないし第二九号証

2  証人間瀬茂、同沢井淳一、同元屋実(第一、二回)

3  甲第一及び第三号証の成立は認め、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  請求原因1の事実、原告が昭和四九年より「井ノ内ストアー」なる屋号をもってパン、菓子の小売を行なう食料品店を営み、また、少なくとも昭和四八年一一月ころ以降「さつき」なる屋号をもってお好み焼屋を営んでいたこと、原告が白色申告者であることは当事者間に争いがない。

二  まず、原告は、被告の部下職員が原告の所得税を調査するについて、原告から調査理由の開示を求められたのに、これを全く開示しなかった違法がある旨主張するので検討するに、証人間瀬茂の証言によれば、被告の部下職員は、原告及び原告の妻である中大路悦子の所得税調査のため、昭和五一年六月から昭和五二年二月末までの間一〇回にわたり原告方に臨場し、原告夫婦に対し、所得金額が正しいかどうかを確認するために調査に来た旨を告げて、事業に関し質問し、帳簿、領収書等の提示を求めたが、原告夫婦は調査理由に納得できないとして、終始これに応じなかったことが認められ、これに反する証人中大路悦子の証言(第一回)部分は措信できない。右認定の事実によれば、調査の理由は告知されているというべきであり、また、質問検査を行なううえで調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知は法律上一律の要件とされているものではないのであるから、本件調査について原告の主張の如き違法は存しない。

原告は、申告にかかる所得額が正当であるか否かを確認するためにのみ所得税調査を行なうことは許されないと主張するが、健全な申告納税制度の維持のためにも、申告内容の適否の調査は欠くべからざるものというべきであり、原告に対する本件所得税調査を不当であると解すべき根拠は何ら見当らないから、これを採ることができない。

三  次に、原告の総所得金額について検討する。

1  昭和四九年分

(一)  お好み焼屋の営業による所得金額

成立に争いのない乙第一号証の二、第一〇号証(売上収入金額欄及び入金額欄の※印を付した金額部分を除く。)を総合すると、原告が審査請求において申立てた昭和四九年分のお好み焼屋の営業による所得金額は八八万二六三八円であり、その計算のうち減価償却費に関する申立額は一一〇万一八七五円(そのうち建物の減価償却費は八七万円)であることが認められる。

被告の主張は、原告の同年分の減価償却費は五二万八七九八円であるとし、その余については原告の申立額を採用して、原告申立ての所得金額に、減価償却費についての右認定額と原告の申立額との差額を加算するものである。

そこで、原告のお好み焼屋の営業における同年分の減価償却費について判断する。

成立に争いのない乙第一一号証の二の一ないし六、中大路悦子の署名捺印部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人沢井淳一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一、証人中大路悦子の証言(第一回)を総合すると、原告は、お好み焼屋の営業のために別表二の<1>記載の償却資産を<2>記載の年月日に<4>記載の価額で取得し、昭和五〇年五月二五日右営業を廃止したことが認められる。

被告は、別表二のうち昭和四七年一月に取得した店舗及び備品は昭和四八年一〇月除却したものとして処理すべきであると主張する。

成立に争いのない乙第一三号証、証人元屋実の証言(第一、二回)及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一四号証、第一五号証の一、二、第二三号証、証人中大路悦子の証言(第一回)を総合すると、原告は昭和四七年一月、長岡京市所在のスーパーマーケット「イズミヤ」店内においてお好み焼屋「さつき」を開業したが(原告は、原告が右お好み焼屋を営業したのは、中大路悦子から右店舗の譲渡を受けた昭和四八年一一月ころより後である旨主張するが、右営業における昭和四九年分の減価償却費を算出するについては、原告が開業当初から営業したものであるか、昭和四八年一一月に中大路悦子から引継いだものであるかによって差異を生じない。)、昭和四八年一〇月隣接する永井忠厚の寿司店の店舗を買受け、増改築工事を行なってお好み焼屋の店舗を拡張し、同年一一月三日新装開店したこと、その際店内のすべてのテーブルを取換え、新たにカウンターを取付けたことが認められ、また、別表二の償却資産のうち右増改築に関係があると考えられるもの(同表の店舗(増改築)、調理場、フード、照明器具、ステンレス流し台、ガスコンロ)の取得価額を合計すると四〇一万六二五〇円となり、これらによれば、右増改築はかなり大がかりなものであったということができる。しかし、原告または中大路悦子が昭和四八年分所得税の申告において、昭和四七年一月取得にかかる別表二の店舗及び備品を昭和四八年中に除却したものとして必要経費に計上したとの証拠はなく、また、右店舗及び備品の内容は証拠上明確でないうえ、昭和四八年一〇月の増改築によってそれらの償却資産がすべてその価値を失ったとする証拠もない以上、右増改築によってそれらが除却されたか否かは確認できないものといわなければならない。したがって、右償却資産も他の償却資産とともにお好み焼屋が廃業された昭和五〇年五月二五日まで事業の用に供されていたとみるべきである。右昭和四七年一月取得にかかる店舗及び備品についての被告主張の算出償却額(別表二の<8>)は相当であり、これによれば、右店舗に対する昭和四九年分の償却額は一七万一〇〇〇円、右備品については三万三七五〇円となる。

別表二のその余の償却資産についての被告の計算は相当である。

原告は、店舗、備品、フードの取付価格を加えたうえで償却費を算出すべきである旨主張するが、前掲各証拠によれば、それらの取得価額にはその取付価格も含まれているというべきであり、その取得価額の他に取付価格を要したとする証拠はないので、原告の右主張は採ることができない。

ところで、原告が審査請求において申立てた前記建物の減価償却費八七万円は、成立に争いのない甲第三号証及び弁論の全趣旨によると、異議決定において昭和四九年分の減価償却費として認定された金額であり、このうちには昭和四八年一〇月に二一〇万円で取得した店舗権利金の償却額四二万円を含むことが認められる。

そこで、先に認定した償却額の他に右店舗権利金の償却額を認めるべきか否かについて判断する。

前掲乙第二三号証、証人元屋実の証言(第二回)を総合すると、イズミヤの店舗を借受けるためには、これについて権利を有する乙訓商業協同組合(以下「組合」という。)に対し出資金を納付しなければならず、貸借終了時右出資金が全額返還されること、右店舗にかかる権利を直接第三者に譲渡するときは、原則として出資金の返還請求権はその譲受人に引継がれ、譲渡人においてこれの返還を受けられないこと、永井忠厚は、原告のお好み焼屋に隣接して寿司店を営んでいたが、これについて二一〇万円を出資すべきところ六七万円を支払ったのみで、残一四三万円は未払であったこと、永井は昭和四八年一〇月右店舗にかかる権利を原告に売渡したが、その代金は六七万円にしかならず、寿司店経営のため設備費等として投下した一五〇万円以上の資金を結局回収できなかったこと、原告は右店舗の出資金残額一四三万円を組合に支払い、右店舗について出資された計二一〇万円は後に原告において返還を受けたこと、永井は右のとおり原告に対し六七万円で譲渡したにもかかわらず、原告の依頼によりその代金を二一〇万円とする領収証を発行したことが認められ、これに反する証人中大路悦子の証言(第一、二回)及び原告本人の供述部分は前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、また、甲第二号証の記載は右認定のとおり原告が永井に現実に二一〇万円を支払った証拠とすることができず、甲第四及び第五号証は、右認定のとおり、対組合との関係において、永井に六七万円の出資金の返還請求権がなく、これを含む計二一〇万円の出資金の返還請求権が原告のみにあることを明確にするため作成されたものと解されるから、これらをもって右認定を覆えすに足りず、その他右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、原告が永井から店舗の権利を譲受ける際支出した計二一〇万円は後に全額返還されており、これについて償却額は生じない。

以上によれば、原告のお好み焼屋の営業における昭和四九年分の減価償却費は、被告主張の五二万八七九八円に前記店舗及び備品の償却額を加えた七三万三五四八円となる。

したがって、お好み焼屋の営業による所得金額は、原告が審査請求において申立てた所得金額八八万二六三八円に、減価償却費についての右認定額七三万三五四八円と原告の申立額一一〇万一八七五円との差額三六万八三二七円を加算した一二五万〇九六五円となる。

(二)  食料品店の営業による所得金額

(1) 被告は、原告の昭和四九年分の食料品店の営業による所得金額を算定するについて、推計による方法を主張するので、まず推計の必要性についてみるに、前述したとおり、被告の部下職員が原告夫婦の所得税調査のため多数回にわたり原告方に臨場し、原告夫婦に対し調査の理由を告知したうえ事業に関して質問し、帳簿、領収書等の提示を求めたにもかかわらず、原告夫婦が終始これに応じなかったのであるから、本件更正の時点において原告の所得金額を推計する必要性が存していたことは明らかである。

そして、前掲乙第一号証の二によれば、原告は、審査請求の過程において食料品の小売業に関する売上帳を提出したものの、仕入金額及び一般経費の額を実額によって算定するに足りる証拠書類は提出しなかったことが認められる(この点に関する証人中大路悦子の証言(第一回)部分は措信できない。)。また、本件訴訟においては、所得を実額で算定するための資料を原告は一切提出しないのみならず、所得算出の基礎となる売上金額、売上原価、必要経費等に関する実額の全体的主張をさえ、あえて拒否している。

したがって、原告の昭和四九年分の食料品店の営業による所得金額を推計する必要性はなお存しているといわなければならない。

(2) 次に、被告は原告の食料品店の営業による所得金額を本件類似同業者の差益率等によって推計する方法を主張するものであるので、右推計方法の合理性について判断する。

証人元屋実の証言(第一回)によると、被告は、原告の食料品店の営業による所得金額を推計するために、原告方店舗の所在する右京税務署管内で、継続して事業を行なっている青色申告者の中から、原告と同様の商品を扱い、売上げが原告の倍程度までのものを選定したところ、これに該当する同業者は三名あったが、被告が選択した本件類似同業者を除く他の二名は、たな卸商品が原告方店舗程度にないため、原告の所得金額を推計するための同業者として不適当と判断したことが認められる。

そして、証人中大路悦子の証言(第一回)によれば、原告の食料品店の経営には昭和四九年当時中大路悦子(但し、同年二月から五月までは同人が出産のため中野秀子を雇傭する。)と祖母の二人が従事していたことが認められるところ、証人元屋実の証言(第一回)によると、本件類似同業者は夫婦二人が食料品店の営業に従事するものであること、大阪国税局の担当職員は、右同業者方に三回、原告方店舗に数回赴き、右同業者の説明を聞いたり、帳簿を見たり、あるいはその近隣を実際に歩き回ったりして、店頭の扱い商品、その構成割合、付近にスーパーマーケットがあるかなどの事業規模、立地条件等について、右同業者が原告のそれらと類似することを確認したことが認められる。

右認定の事実によれば、被告が行なった本件類似同業者の選択の相当性、原告との類似性は一応これを肯定すべきものであり、また、右同業者は帳簿の記帳等を義務づけられている青色申告者であるから、その決算書の数値は一応正確なものと推認されるので、右同業者の決算書の数値を基に原告の所得金額を推計する方法は合理性を有するものということができる。

原告は、被告の選出した同業者が僅か一名であるとして推計の合理性を争うが、同業者が一名であることをもって直ちに合理性を有しないということはできず、同業者が一名となったのは右認定の事情によるものであって、原告との類似性も右のとおり一応認められ、その類似性の点については本件において何らの反証もないのであるから、右推計方法を合理的でないとする根拠とならない。

また、原告は、お好み焼屋を兼業しているのでこれを兼業しない本件類似同業者は原告の類似同業者として不適格であるとも主張するが、本件の食料品店の営業について選定した同業者数からみて、食料品店とお好み焼屋とを兼業する原告規模程度の同業者を選出することは極めて困難であり、しかも、本件推計のためにはその同業者は業種目毎の収入金額、必要経費を分別して記帳しているものでなければならないこととなるが、そのような類似同業者の選出は不可能とさえいえる。他方食料品の小売とお好み焼屋の営業とは事業形態に差異があることは容易に窺われるところ、前掲乙第一〇号証(成立に争いのない部分)、第一四号証、証人元屋実の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第九号証の一、二、証人中大路悦子の証言(第一回)を総合すると、原告の営業において、食料品店とお好み焼屋とは店舗を別にし、その間の距離も相当あり、従事員が異なるほか、仕入も小麦粉を除いてそれぞれ独自に行ない、必要経費も別個に生じていることが認められ、これらによれば、右二つの営業は別個独立したものというべきであるから、食料品店の営業による所得金額を推計するについて、お好み焼屋を兼業しない本件類似同業者が原告の類似同業者として不適格であるということはならない。

そこで、証人元屋実の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第二号証(青色申告決算書)の数値によって、右同業者の差益率、期末たな卸率、経費率を算出すれば、被告主張のとおり、それぞれ二二・九一パーセント、五・一八パーセント、三・四二パーセントとなることが計算上明らかである。

(3) 仕入金額

被告の主張2の(一)の(2)の(ウ)の<1>ないし<7>の仕入先が原告の仕入先であることは当事者間に争いがない。

以下、仕入先別の仕入金額を検討する。

証人元屋実の証言(第一回)及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第三号証の一、二、四、証人間瀬茂の証言及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第四及び第五号証、第六号証の二、三、第七号証、証人沢井淳一の証言及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第八号証によると、原告は「井ノ内ストアー」の営業において昭和四九年中に、フジパン株式会社から二五三万一七七五円、飯島弘敏(森永乳業井ノ内販売店)から四七万九〇七〇円、株式会社カワカツから六四万五八八九円、株式会社渡辺から一四四万四〇一六円、株式会社三ツ矢ペンデイングから三万七八七〇円、清水株式会社から一一六万九八一六円の商品を仕入れたことが認められる。

前掲乙第九号証の一、二、証人元屋実の証言(第一回)によると、被告は、原告の昭和四九年中における近畿コカ・コーラボトリング株式会社からの仕入金額を反面調査したところ、原告の右会社からの製品別仕入量及び一ケース当り仕入単価が別表三のとおりであることは判明したが、仕入実額を把握できなかったことが認められる。したがって、右判明した仕入単価及び仕入量を基礎に別表三のとおり仕入金額を推計することは合理性があるというべきであり、これによれば、原告の昭和四九年中における右会社からの仕入金額は計算上一八万二五八〇円となる。

したがって、以上の各仕入先からの仕入金額を合計した六四九万一〇一六円が、原告の昭和四九年中における仕入金額である。

(4) 期首たな卸高

右認定の仕入金額六四九万一〇一六円に、前掲乙第二号証によって認められる本件類似同業者の期首たな卸率四・四四パーセントを乗じて推計すると、二八万八二〇一円となる。

被告は、別途推計によって算出した中大路悦子の昭和四八年の期末たな卸高二八万五四八七円を原告が引継いだものとして、同額を原告の昭和四九年の期首たな卸高であると主張するが、右金額は本件で推計した前記期首たな卸高より低額で原告に有利となり、これに反する証拠もないので、右被告の主張は相当である。

(5) 期末たな卸高

前記(3)で認定した仕入金額六四九万一〇一六円に、本件類似同業者の期末たな卸率五・一八パーセントを乗じて推計すると、三三万六二三五円となる。

(6) 売上原価

(3)の仕入金額に(4)の期首たな卸高を加算し、(5)の期末たな卸高を減算した六四四万〇二六八円となる。

(7) 売上金額

右認定の売上原価六四四万〇二六八円に、本件類似同業者の差益率二二・九一パーセントを適用して算出した八三五万四二一九円となる。

右推計による売上金額は、原告が審査請求において食料品の売上金額であると申立てた七四七万〇七八二円(乙第一一号証の二の六、乙第一号証の二)を一割程度上回ることとなるが、本件訴訟において原告の右申立額を裏づける資料の提出はなく(前述のとおり、原告は本件訴訟においては、具体的な売上金額の主張をさえ拒否している。)、また、被告主張の本件類似同業者の差益率等を原告に適用して推計することが合理性を有しないとするに足るような反証も存在しないところ、更に、前掲乙第九号証の一、二、成立に争いのない乙第一六号証、証人元屋実の証言(第一回)及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一七及び第一八号証によると、原告が仕入れた主な商品の卸値、小売値により算出した差益率は、原告の取扱い商品や小売価格の値上げ等を考慮すればほぼ被告主張の差益率になることが認められ、これらを総合すると前記推定にかかる売上金額は、結局、適正なものというべきである。この点について、証人中大路悦子の証言(第一回)及び原告本人の供述中、製品に製造年月日の表示があるため製品価格表どおりに販売できず、値引したとある部分は、証人元屋実の証言(第二回)及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二二号証に照らし措信できず、その他右差益率を適正でないとする証拠はない。

(8) 一般経費

右(7)で認定した売上金額八三五万四二一九円に、本件類似同業者の経費率三・四二パーセントを乗じて推計すると、二八万五七一五円となる。

(9) 特別経費

前掲乙第一一号証の二の六及び証人中大路悦子の証言(第一回)によると、原告は昭和四九年中に食料品店の営業のため中野秀子を雇傭し、賃金として二六万円を支払ったことが認められるが、その他に原告が同年中に食料品店の営業において特別経費を支出したとの証拠はない。

以上によれば、食料品店の営業による所得金額は、(7)の売上金額から、(6)の売上原価、(8)の一般経費及び(9)の特別経費を差引いた一三六万八二三六円となる。

(三)  事業専従者控除額

二七万五〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

(四)  事業所得金額

(一)のお好み焼屋の営業による所得金額一二五万〇九六五円と、(二)の食料品店の営業による所得金額一三六万八二三六円との合計額二六一万九二〇一円から、(三)の事業専従者控除額二七万五〇〇〇円を差引いた二三四万四二〇一円となる。

2  昭和五〇年分

(一)  事業所得金額

八六万円であることは当事者間に争いがない。

(二)  総合短期譲渡所得金額

(1) 中大路悦子の署名捺印部分については成立に争いがなく、その余の部分については証人沢井淳一の証言により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、証人元屋実の証言(第二回)により真正に成立したものと認められる乙第二五号証によれば、原告は昭和五〇年一二月にお好み焼屋「さつき」の店舗の賃借権及び店舗・什器備品を一括して株式会社春陽堂に対し八〇〇万円で売渡したことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

(2) 取得費

店舗及び什器備品の未償却残高がこれに該当するところ、前述のとおり、別表二の昭和四七年一月取得にかかる店舗及び備品を除くその余の償却資産の償却額についての被告の計算は相当であり、これによればこれらの取得価額は四七四万七六八五円(同表の<4>)、償却額の累計は一一七万七四二四円(同表の<16>)となる。

同表の店舗及び備品については、前述したとおり、その余の償却資産と同様昭和五〇年五月二五日まで事業の用に供されていたというべきであり、したがって、同様に譲渡されたというべきであるから、これについても同様に未償却残高を計算しなければならない。そこで、これらの事業の用に供された期間(昭和四七年一月から昭和五〇年五月まで四一か月)における償却額を計算すると、店舗については五八万四二五〇円、備品については一一万五三一三円となる。

(算式)

(算出償却額)(期間)

<省略>

<省略>

また、これらの事業の用に供さなくなってから譲渡されるまで(昭和五〇年六月から同年一二月まで)の償却額を所得税法施行令八五条一項、二項によって計算すると、店舗については一一万二八六〇円、備品については二万二四一〇円となる。

(算式)

(償却の基礎となる金額)(耐用年数15年の定額法による償却率)

店舗についての償却額=1,710,000円×0.066

(年数)

×1年=122,860円

(償却の基礎となる金額)(耐用年数12年の定額法による償却率)

備品についての償却額=270,000円×0.083

(年数)

×1年=22,410円

したがって、これらの償却額の累計は、店舗については六九万七一一〇円、備品については一三万七七二三円となる。

以上によれば、当初取得費は被告主張の四七四万七六八五円に、別表二の店舗の取得価額一九〇万円、備品の取得価額三〇万円を合計した六九四万七六八五円となり、償却額の累計は被告主張の一一七万七四二四円に右店舗についての六九万七一一〇円、備品についての一三万七七二三円を合計した二〇一万二二五七円となり、未償却残高はその差額四九三万五四二八円となる。

原告は、永井忠厚から店舗を取得するための権利金として二一〇万円を支払ったとして、これを取得費に算入すべきであると主張するが、前述したとおり、原告が永井に支払ったのは六七万円にすぎず、また、その際原告が支出した計二一〇万円は後に返還されているのであるから、これを取得費に含めることはできない。

したがって、右認定の未償却残高四九三万五四二八円が取得費となる。

(3) 譲渡費用

成立に争いのない乙第一一号証の二の七及び弁論の全趣旨によれば、原告は前記賃借権、店舗、什器備品を売却するために広告代金六万六〇〇〇円を支出したことが認められ、これが譲渡費用となる。

(4) 特別控除額

所得税法三三条四項に規定する五〇万円である。

以上によれば、総合短期譲渡所得金額は、(1)の譲渡収入八〇〇万円から、(2)の取得費四九三万五四二八円、(3)の譲渡費用六万六〇〇〇円、(4)の特別控除額五〇万円を控除した二四九万八五七二円となる。

(三)  総所得金額

(一)の事業所得金額八六万円と(二)の総合短期譲渡所得金額二四九万八五七二円との合計額三三五万八五七二円である。

3. 以上の次第で、本件更正は本件各係争年分ともその総所得金額の範囲内でなされたものであるから、所得を過大に認定した違法があるとの原告の主張もまた失当である。

四  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田坂友男 裁判官 小田耕治 裁判官 森高重久)

別表一

課税経過表

<省略>

別表二

減価償却費の計算

<省略>

別表三

昭和四九年分仕入金額算定表

<省略>

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